TOP >> 医院長が語るスプラインインプラントシステム
スプラインインプラントシステムは、1997年に日本で発売されて、今年で10年目を迎え、大きな仕様変更もなく完成度の高いインプラントであり、そのフィクチャーとアバットメントの接合様式はスプライン構造と呼ばれるユニークな構造を有し、従来の外側性回転防止維持機構の欠点であるアバットメントの回転やスクリューの緩みに対して優れた防止効果を発揮する1)。またインプラントの表面処理は、MP-I2)3)と呼ばれる新しいHA コーティング処理がなされている。
Zimmer社のHAコーティングインプラントは1985年に、初めてCalcitek 社より発売され、現在では、MP-1と呼ばれる新しいコーティング技術によりアパタイトの結晶率は97%まで高められ、他社のHAコーティングインプラントの結晶率より優位に高く信頼性のあるインプラントである。
また、HAの溶着強度が強いため、抜歯即時埋入などの症例ではツイストタイプを使用することにより、セルフタップでインプラントが埋入出来るので優れた初期安定性を示す。
1,HAコーティングインプラント(MP-1)の適応症
HA コーティングインプラントは、チタンインプラントと比較して、骨とカルシウムブリッジにより直接生化学的に結合し、Biointegrationと定義されている。この結果、インプラント周囲と骨海面において、より早く、より強い結合力、より多くのの骨形成が期待出来る。HAコーテッドインプラントがチタン系インプラントに比べて優れている点として
- 1.必ずしも初期固定を必要としない。
- 2.インプラント自体の骨伝導性による抜歯窩などのスペースに左右されない許容性。
- 3.骨質を選ばない(骨質 TypeⅣに有効)。
- 4.早期の骨結合などがあげられる。
しかし、過去に他社の製品で、チタン表面にコーティングされたHAが剥がれてバイオインテグレーションが破壊され、感染によって早期に骨吸収が進むという問題点が指摘された時期があったが、HAコーティングインプラントは、すべて同じ品質ではなく、製造各社それぞれ、コーティング技術、結晶率、HA層の厚み、溶着強度など製品間の差があり、信頼性のある製品を選ばなくてはならない。
適応症の選択、無理のない補綴設計、口腔内環境の整備を行ったうえでのMP-1のような信頼性のあるHAコーティングインプラントの使用は、長期的にも安定し患者にとって優しいインプラントであると言える。
HAコーティングインプラント(MP-1)の適応症
- 1.上顎骨など骨質が不良な場合 (骨質 Type Ⅳ )
- 2.ソケットリフト (垂直骨量5mm≧)
- 3.抜歯即時埋入 (インプラントと抜歯窩のギャップが2mm≦、初期固定が取れない場合)
などが適応症としてあげられる。
このような症例に、HAコーティングインプラントを使用することにより、従来のチタンインプラントではなしえなかった症例に対して、侵襲が少なく、より短期間に治療を終えることが可能となった。
この章では、以上の症例を供覧し、HAコーティングインプラントの有効性について症例を通して解説する。
症例1, 上顎骨など骨質が不良な症例(骨質 タイプⅣ)

図-2a:術前上顎第一小臼歯欠損
近遠心的歯冠幅径が狭いが、両隣在歯が健全歯の場合、インプラント処置の適応となる。

図-2b:術前X写真
両隣在歯間幅径が狭いため、隣接面の形態修正を行い、フラップレスでの埋入処置を計画した。

図-2c
骨質が不良なため、オステオトームを用いてインプラント窩の圧縮と拡大を行った。

図-2d
スプラインHAツイストタイプ 径3.75mmを埋入トルク値35Ncmに設定し、セルフタップで植立した。

図-2e: 術直後
セルフタップにより十分な初期固定が得られたので、即時にプロビジョナルレストレーションを装着した。

図-2f: 最終補綴物装着
順調に経過し術後8週で最終補綴物を装着した。
HAコーティングインプラントの使用により早期に治療を終えることが出来た。
症例2 ソケットリフト(垂直骨量 5mm≧)

図-3a: 術前
重度歯周炎のため抜歯後、歯肉弁が治癒してからのソケットリフトを計画した。

図-3b: ソケットリフト
骨補填材を填入しシュナイダー膜を挙上後、スプラインHAインプラントを埋入した。

図-3c: 術直後X線写真
上顎洞底6?7mmの挙上が確認出来た。

図-3d: 2次手術
術後16週で2次手術を行い十分なインテグレーションが得られた。

図-3e: 術後24週
術後20 週で印象採得を行い、術後24週で最終補綴物を装着した。

図-3f: 術後4年X線写真
強固なインテグレーションは維持され、インプラント周囲の骨吸収は認められない。
症例3 抜歯後即時埋入(大臼歯)

図-4a: 術前
左側ブリッジの第二大臼歯の舌側に破折が認められた。

図-4b: インプラント埋入
インプラントと抜歯窩のギャップは3mm以上有り、十分な初期固定は取れなかった。
この場合、HAコーティングインプラントが適応となる。

図-4c: 術直後
抜歯窩とインプラントのギャップにβ-TCPを填入し血餅保持のためにコラテープを置き、歯肉弁の初期閉鎖はしなかった。

図-4d: 術後4週
抜歯窩周囲の歯肉は自然閉鎖し、術後の疼痛および腫脹は認められない。

図-4e: 術後4週X線写真
インプラント周囲と抜歯窩のギャップの大きさから充分な初期固定は得られなかった。

図-4f: 術後8週
2次手術時、抜歯即時部位のPT値は-04で、成熟側部位より強固なインテグレーションを示していた。

図-4f: 術後12週最終補綴物装着

図-4g: 最終補綴物装着後X線写真
HAの骨伝導性により早期に抜歯窩とインプラント部のギャップは新生骨で満たされた。

図-4h: 術後2年後CTでの評価
インプラント周囲の骨吸収は認められない。
また強固なインテグレーションは維持されている。
2, 患者中心のインプラント治療とは?
これらの症例で示すように、HAコーティングインプラントは、上顎骨の前臼歯部で多く認められる骨梁が乏しい症例や上顎洞に近接して垂直骨量が少ない症例での上顎洞挙上においても、短期間で強固なBiointegrationが得られる。
特に抜歯即時埋入インプラントにおいては、チタンインプラントを使用した場合、初期固定や抜歯窩とのギャップ、歯肉弁の初期閉鎖などの問題点があり、抜歯即時埋入の適応症が限定される。そのために、チタンインプラントでの使用は抜歯後、歯肉が治癒してからの抜歯待時埋入が適応となる。この場合、手術回数の増加、抜歯後の骨吸収のための骨造成処置の必要性、長期の治療期間など、患者、術者にとって不利益なことが多いと思われる。
患者中心のインプラント治療とは、より少ない侵襲で、より治療期間が短期間で終了し、機能と審美性をもったインプラント補綴が予知性を持って末長く生存することが目標となる。そしてインプラント治療自体を欠損補綴の手段として考えるならば、インプラントの選択も、その欠損部位の状況の応じて使い分けしなくてならない時代に来ていると考えている。
3, インプラントーアバットメント回転防止維持機構の問題点
従来のブローネマルクインプラントに代表される外部6角回転防止維持機構(エクスターナルヘクス)の問題点として、アバットメントのマイクロムーブメントが起きやすく、経時的にアバットメントの回転やアバットメントスクリューの緩みを招きやすい結果となった4)5)6)。
(図-5)そもそもブローネマルクインプラントでの外部6角回転防止維持機構の目的は、インプラントを植立するためのマウントジグを保持するためのデザインであり、当時の上部構造は多数歯でのマルチプルユニットが主流であり、今日のように単独で使用する発想はなかったため、そのまま回転防止機構として使用されていた。

図-5a :外部6角回転防止維持機構
エクスターナルヘクスはマイクロムーブメントが起きやすく、アバットメントの回転、スクリューの緩みを招きやすい。

図-5b
バットメントスクリューの緩みが起き、最遠心のインプラントに負荷が集中し、インプラントの喪失を招いている。
そのような欠点を解消するために、現在では内側性の回転防止維持機構が主流であるがインプラント径が細い場合、過大な側方力に対して内側性回転防止維持機構のためインプラントが破折する可能性が高い。
またマルチプルユニットでのインプラント処置を行った場合、インプラントの平行性が悪い場合、内側性の回転防止維持機構が邪魔になり、アウタートレイを使用してのフィクチャーレベルの正確な印象が取れないなどの欠点がある。
(図-6)返って従来の外部6角回転防止維持機構のほうがフィクチャーレベルの正確な印象が取りやすい。

図-6
マルチプルユニットでのオープントレイの印象では内側性回転防止維持機構の場合、平行性が悪いと返って回転防止機構がアンダーカットとなり、フィクスチャーレベルの正確な印象が取れない。
4, スプライン回転防止維持機構の優位性
それらの問題点を解決するために開発されたスプラインインプラントの維持機構は、タインと呼ばれる高さ1mmの6本の突起を有し、スクリューの緩みに関しては、従来の外部6角構造と比べて優れた抵抗性を示している7)8)9)。(図-7)

スプライン回転防止維持機構
1: タイン
2: ノッチ
タインとノッチがしっかり嵌合するため、マイクロムーブメントが起きにくい。
1.フィクスチャー保護機構
過大な側方力やねじれが加わった場合、アバットメント側のノッチが破折しインプラントを保護する構造になっている。(図-8)

図-8a
過大な側方力やねじれにより、アバットメント側のノッチが破折し、インプラント自体を保護する役目がある。

図-8b
ブラキシズムによる過度な側方力でのアバットメント側のノッチの破折。

図-8c
アバットメント側のノッチの破折により、フィクスチャーのタインおよび本体の破折は起こりにくい。
2.多数歯におけるフィクスチャーレベルの正確な印象
無歯顎症例などマルチプルユニットで補綴物を製作する場合、回転防止のないノンエンゲージの印象ポストを使用するのであれば問題はないが、アバットメントの回転維持機構を活かした補綴物を製作する場合、回転防止がついたエンゲージの印象ポストを使用しなくてはならない。その場合、スプラインインプラントシステムでは、オープントレーでのマルチプルユニットの印象採得においても、外側性回転防止維持機構の特徴いかした正確なフィクスチャーレベルでの印象採得が可能である。( 図-9)

図-9a: 術前

図-9b: 術前オルソパントモグラフィー
上顎大臼歯部の垂直骨量は、左右とも5mm以下であった。

図-9c: 術後16週
上顎臼歯部は、オステオトームで上顎洞挙上を行った。
他の部位はインプラント植立後、即時荷重を行い、咬合の安定を図った。

図-9d: 印象採得時の固定
術後24週、印象時にトレーと印象ポストをパターンレジンで一体化することによりフィクスチャーレベルの正確な印象が得られ、また外側性回転防止維持機構なので、アンダーカットがあっても容易にトレーの撤去が可能である。

図-9e: 印象内面
回転防止維持機構の付いたエンゲージ印象ポストを使用したマルチプルユニット症例でも、オープントレーによるフィクスチャーレベルでの正確な印象が得られた。

図-9f
フィクスチャーレベルでの正確な印象により作製されたマルチプルユニットでのアバットメント完成。

図-9g : メタルフレーム完成
作業模型上でメタルフレームを完成させた。

口腔内でフレーム試適後、再度ピックアップ印象を行いポーセレン築成後、術後30週で最終補綴物を装着した。

図-9i:最終補綴物装着後X線写真
アバットメントとフレームの適合状態は良好であった。
上顎での多数歯欠損の場合、咬合力は外側方にかかるためインプラント補綴の失敗率は下顎に比べて有意に高い10)。その防止策として、上顎では特に上顎洞挙上や骨質が粗な場合などの症例では、インプラントを植立後、上部構造をクロスアーチで連結することが多い。
多数歯連結の場合、アバットメントとメタルフレームの精密適合を得るためには、スプラインインプラントのような外側回転防止維持機構を持つインプラントが効力を発揮する。また、外側6角回転防止維持機構の欠点であるマイクロムーブメントなどによる経年的なスクリューの緩みもない。
参考文献
1) . Binon PP The spline implant: design, engineering, and evaluation.Int J Prosthodont. 1996 Sep-Oct;9(5):419-33
2) . Burgess AV, Story BJ, La D, Wagner WR, LeGeros JP.Highly crystalline MP-1 hydroxylapatite coating. Part I: In vitro characterization and comparison to other plasma-sprayed hydroxylapatite coatings Clin Oral Implants Res. 1999 Aug;10(4):245-56.
3) Burgess AV, Story BJ, Wagner WR, Trisi P, Pikos MA, Guttenberg SA Highly crystalline MP-1 hydroxylapatite coating. Part II: In vivo performance on endosseous root implants in dogs.. Clin Oral Implants Res. 1999 Aug;10(4):257-66.
4) Jemt T, Laney WR, Harris D, Henry PJ, Krogh PH Jr, Polizzi G, Zarb GA, Herrmann I.Osseointegrated implants for single tooth replacement: a 1-year report from a multicenter prospective study. Int J Oral Maxillofac Implants. 1991 Spring;6(1):29-36.
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